「合理的配慮のリアリティ -障害者の社会復帰と障害理解を考える-」講演会メモ

●本記事は参加した講演会のメモです。誤字脱字の可能性が有ります。

●第1部の内容と、関連するウェブ上の情報をまとめました。

 

講演会

「合理的配慮のリアリティ -障害者の社会復帰と障害理解を考える-」
調布市グリーンホール 小ホール
2017/10/17日曜 13:30〜16:00
質疑応答なし。

プログラム
第1部
挨拶:谷内孝行(桜美林大学健康福祉群 専任講師・調布市障害者地域自立支援協議会副会長)

基調講演:木下大生(武蔵野大学人間科学部社会福祉学科准教授)
「罪を犯した知的障害者支援の現状と課題ー司法と福祉の連携による支援策の到達点と課題ー」

第2部
シンポジウム
「合理的配慮のリアリティ」
コーディネーター:木下大生
シンポジスト:
中津真美(東京大学バリアフリー支援室特任助教
庄司浩(株式会社キューピーあい 代表取締役社長)
小澤隆秀(調布市市民)
畠山祥彦(調布市市民)

閉会の挨拶:調布市福祉健康部長 山本雅章
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基調講演:木下大生
「罪を犯した知的障害者支援の現状と課題ー司法と福祉の連携に取る支援策の到達点と課題ー」

再犯防止促進法(再犯防止推進法?) が、去年施行された。この中に「福祉サービスの利用にかかる支援」という言葉が入っている。

犯罪を犯した知的障害者には福祉サービスが必要という議論があり、そしてそれが健常者にも広がっていたという流れで今に至る。

 

この契機は、政治家だった山本譲司の著書 『獄窓記』 (2003 ポプラ社)。著者は、一度逮捕され、刑務所で暮らしたことがある。著者は、刑務所の中にはヤクザが沢山いる怖い場所だろうと思って怯えていたが、いざ入所してみると、まるで福祉施設のようで、高齢者がおおく、知的障害者も多かった。刑務所での話を本にしたのが、『獄窓記』。当時はとても話題になった。

 

この本を知った長崎の社会福祉法人南高愛隣会の田島良昭が、補助金(厚生労働科学研究)で犯罪を犯した知的障害者の研究を始めた。

 

*1

 

調べると、刑務所内にいる人の中に、ある程度知的障害者がふくまれていた。IQ100が平均として、70から80くらいの人が刑務所内には多かった。
69以下が知的障害者とされているが、ボーダーラインも含め、7割が知的障害者だった。彼らは再犯率も高い。
社会全体でみると、知的障害者の数は0.4パーセント。刑務所の中では60パーセントもいる。
こう聞くと、知的障害があるから犯罪を犯すのだと思いがちだが、知的障害があるから犯罪を犯すとは言えない。なぜか?
知的障害者が刑務所に入りやすい原因は刑事司法手続きが関係している。

一般的に、裁判で有罪になっても、6パーセントしか刑務所に入らない。これらの実刑にならない人は、「謝罪ができる」、「被害弁済できる」、「身元引き受人がいる」などの条件を満たしているために、刑務所に入らない。

小室哲哉などは犯罪を犯したが、エイベックスが数億円のお金を払い、社長が身元引受人となったので本人は刑務所に入っていない。
一方、知的障害者は上記の謝罪等が苦手だったり、身元引受人が居ないことがあるので、結果として刑務所に入りやすい。
また、福祉の支援と繋がっていない事も多い。療育手帳をもっていない人も。
知的障害者の犯罪の動機は生活困窮が36%。罪名は窃盗が56.6%。表の中に「詐欺」とあるが、これは無賃乗車、無銭飲食などで、騙しを行った訳ではない。
また、不遇な家庭環境や、貧困、就職不能などの状況にあるものが多い。

また、入所したあと、仮釈放(保護観察)されにくい原因として、以下がある。
仮釈放の前提は、身元引受人がいること、帰る家があること。これを満たさない場合は、刑務所でどんなに態度が良くても仮釈放されない。

たとえ満期出所しても、その後の支援は無い。福祉と繋がっておらず、相談できるひとがいないので、結果としてまた犯罪に至る。刑務所は一人で生きていけないひとでも、釈放する。 

そして・・・厚生労働省は、受刑者の福祉を充実させ、法務省は再犯を防ぐということで、再犯防止のために協働することになった。
地域生活定着支援センター を作り、刑務所に福祉の専門家を配置した。これは県に1つ。
刑務所に「常勤で」福祉専門官がつくようになった。ほかの福祉職は非常勤。新しい職がこの業界で出来るなんで、とても珍しいこと。

今も一般的に、犯罪を犯すのは個人因子が強いと考えられがちである。だから刑務所にいれて更生させようと考えがち。
だが、表にあるように、環境の調整(環境因子)をすることで防げる犯罪もある。これは主に5つ。


・支援のポイント
1:支援者が権利擁護観を持つ。
出所した人は一般人である。犯罪をする危ないやつだ、というスティグマを持たないようにする。パターナリズムの排除、リクスマネジメントはするが、リスク排除はしない。

2:個別化と当事者視点への着目

3:アセスメント重視。
相対的な本人理解をすることが効果的な支援につながる。ケアマネジメントに関する項目。犯罪行為に関する項目。スパイラルアップ:アセスメント→計画作成→実施→モニタリング→アセスメントにもどる
4:ネットワークで支援
5:自尊感情向上に注目
罪を犯した知的障害者の共通項→家庭環境に課題、貧困、自尊心が低い。自尊心を高める要素は、親身になてくれる人の存在、仲間、継続による自信。
社交性感覚、自分の存在価値の高まり。

 

・彼らから、自分と同じ境遇のひとの力になりたい
という言葉がでると、うれしい。

福祉従事者としての役割は、「生活課題がある人に対する支援」であって、「再犯防止」ではない。
私(木下)は、「再犯防止」を掲げて活動はしていない。この考え方は、パターナリズム(強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志に反してでも行動に介入・干渉すること)が働きやすい。
また、リスク排除のつもりで、酒を飲むな、タバコを吸うな、何時に寝ろ、など行動を禁止するようなはしない。良かれと思ってやったことが、本人にとってどんな意味を持つか考える。

 

国立のぞみの園 国の唯一の研究所で働いていた時、入所者に言われたこと。「ここは刑務所より悪い。」

 

*2

 

 なぜなら、いつ出所できる分からない。のぞみの園の職員に聞いてもはぐらかされるが、刑務所では出所日がはっきりしている。

 

以前は、犯罪者から社会を守るのだという視点、処罰感情を持っていた自分だが考えが変わった。
・どうあれ出所する。だれかが支援しないといけない。
・短気な自分だって、いつ入所するかわからないなあ。

配布資料のなかで、厚労と法務省の支援がある部分は、丸で囲んであるように、出口のとこだけ。
なので、捕まった時や、その後の支援は、運による。取り調べ段階でも差別されている。

「障害者の権利に関する条約」
第13条 司法手続の利用
・・・・障害者が他のものと平等に司法手続きを効果的に利用することを確保する。

よって、支援が必要な理由は、
権利保障は・・皆が対等な社会
社会復帰可能・・やり直せる社会
共生社会構築・・・誰もが住みやすい

・私達が出来ること
障害者に関心を持つ 想像力。
正しい知識を得る 。
障害者を排除する言動、行動をしない。
できる範囲で他者に伝えること 創造。

障害者の人権 を回復、擁護することが、既存の人権の豊饒化につながる。

 

講演会メモは以上。

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●ウェブ上にある関連する情報


第3章海外における知的障害を有する犯罪者の処遇
http://www.moj.go.jp/content/000121757.pdf

 

法務省:研究部報告52
知的障害を有する犯罪者の実態と処遇
http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00072.html

 

法務省:再犯の防止等の推進に関する法律の施行について
http://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho04_00049.html

 

再犯の防止等の推進に関する法律概要
http://www.moj.go.jp/content/001212699.pdf

 

ポプラ社『獄窓記』著 山本譲司
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8000125.html

 

社会福祉法人 南高愛隣会
http://www.airinkai.or.jp/service/tsumi

 

平成20年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書
罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究
研究代表者 田島良昭
http://www.jsrpd.jp/static/houkoku/pdf/h20_suishin_happyou01.pdf

 

日本障害者リハビリテーション協会
厚生労働科学研究・研究推進事業 一覧
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/kosei.html

 

厚生労働科学研究研究費補助金
障害保健福祉総合研究事業
罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究
平成19年度 総括
・分担研究報告書
主任研究者 田島 良昭
平成20(2008)年 4月
http://www.airinkai.or.jp/kenkyu_pdf/2008/2008_1/h19/all.pdf

 

「犯罪」に追い込まぬために…「特別な人」と考えず、早期の福祉サポートを 山本譲司氏と村木厚子氏が語る現状と課題
http://www.sankei.com/west/news/150925/wst1509250013-n1.html

 

 

 

*1:

※おそらくこの研究ではないか?

罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究

*2:

独立行政法人 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園

重度の知的障害がある人達に対する自立のための総合的な支援の提供や、支援に関する調査や研究等を行うことにより、知的障害者の福祉の向上を図ることを目的として設立されました。

www.nozomi.go.jp